BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

オニバス(スイレン科)

Euryale ferox Salisb.

オニバス

<日本在来種で最大の一年草。 種子を芡実(ケンジツ)といい中国では薬用とする。>

“オニバス”と聞くと、夏季のニュースでよく見る「子どもが乗っても沈まない」という映像を連想する方が多いと思います。あのオニバスは、アマゾン原産のオオオニバス(Victoria amazonica)あるいはパラグアイやアルゼンチンを原産とするパラグアイオニバス(Victoria cruziana)をさしています。

今回取り上げますオニバス(Euryale ferox)は、インドから東アジア、日本にも分布するスイレン科の1年草で、上記の南米のオニバスとは属が異なる植物です。
堀や人工的なため池などにも生え、葉の直径は1mをゆうに超すものもあり、大きな葉を広げて水面を覆い隠すほどに広がります。葉にはしわが多く、特に裏面は紫色を呈し、網目状に葉脈がごつごつと隆起しています。両面ともとげが多く認められます。またとげがびっしり覆う葉柄は葉の中央部について楯状になっています。
「子どもが乗っても沈まない」オニバスと一見して違うのは水面に浮かぶ葉が縁高になっていないことで、むしろスイレンに似ているといってもいいと思います。
花期は夏から秋で、根茎から長い花茎を伸ばし、そのいただきに直径4cmほどの花を単生します。写真のように萼片は緑色で4枚、紫色の花弁をたくさんもち、多くの雄しべを出します。このほかに水面から出ないで水中で開かずに成熟する閉鎖花もあり、どちらかというと閉鎖花の方が多くつきます。
結実すると直径10cmほどのトゲに覆われた球形の果実をつけます。果実の中には黒紫色で直径5~10mmほどの球形の種子をたくさん含まれていて、熟すると果実は開裂して種子を水中に放出します。
この種子はデンプンに富んでいて食べることができます。
中国では成熟した種子を芡実(ケンジツ)と呼んで、滋養強壮、鎮痛薬として利用されています。また、花茎、根、葉も薬用とされ、花茎(芡実茎)は解熱に、根(芡実根)は帯下に、葉(芡実葉)は止血に利用されることが知られています。
オニバスは、日本に自生する一年性植物の中では最大種と思われますが、すっかり数が減少しており環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。